COCKTAIL VERRINEカクテルヴェリーヌ スペシャルインタビュー

器の中に広がる
ストーリーと
カクテルヴェリーヌの可能性

カクテルの味や香りの広がりにヒントを得て
考案した、NUMOROUSオリジナルの
「カクテルヴェリーヌ」。
考案者であるオーナーパティシエ・大塚泰裕さんに、誕生のきっかけや、カクテルヴェリーヌにかける想い、今後の夢や展望について、語っていただきました。

オーナーパティシエ 大塚 泰裕
話し手

オーナーパティシエ大塚 泰裕

関東のパティスリーで腕を磨き、Iターンで長野県松本市に移住して独立。
「Pâtisserie NUMOROUS」を2017年3月にオープン。

ライター 後藤 麻衣子
聞き手

ライター後藤 麻衣子

情報誌の編集や印刷媒体の企画などを7年経験した後に独立をした、名古屋・岐阜で活動するフリーライター。

カクテルを、
固形で表現するという挑戦

カクテルヴェリーヌが誕生したのはいつですか?

2017年3月にNUMOROUSをオープンして4ヶ月ほど経ち、
初夏を迎えた頃に「爽やかなゼリーのケーキをつくろう!」と思ったのがきっかけでした。
うちの店はお酒をテーマにしたパティスリーなので、「お酒を使ったゼリー」というのは早々に決めて、さっそく試作をはじめました。
カクテルヴェリーヌ第一号は、信州ワインを使った「カーディナル」でしたね。

その「カーディナル」は、どんなカクテルヴェリーヌなんでしょうか?

赤ワインと葡萄とカシスのカクテルヴェリーヌです。
ここ松本市周辺はワイン醸造がさかんで、一流のワイナリーが点在しています。
カクテルヴェリーヌの構想をしているタイミングで知ったのが、塩尻の「井筒ワイン」さん。

コンコードという地元の品種を醸造した、甘くてフルーティーな、とても軽やかなワインがあることを知りました。ひと口飲んだ瞬間、デザートワインのような甘さに感動して「これをケーキに使ったら絶対に美味しくなる…!」と確信し、葡萄と赤ワインのヴェリーヌ構想がはじまりました。

そもそも、NUMOROUSの「カクテルヴェリーヌ」って?

カクテルヴェリーヌは、これからNUMOROUSのスペシャリテにしていきたいと思っているケーキのひとつです。そもそもヴェリーヌというのは、層の美しいグラスデザートのことで、主にフランスで広くそう呼ばれています。

複数の味が器の中で層になっているので、それを一層ずつ破っていくような感じで、上から食べ進めていきます。だんだんと味や香りが変化していくのを楽しめるデザートです。
NUMOROUSのヴェリーヌは、その名も「カクテルヴェリーヌ」。
カクテルの味と香りをヴェリーヌとして表現したものです。

どうして「カクテル」をヴェリーヌにしようと思ったんですか?

カクテルは、とても完成度の高いパーフェクトなお酒。
口に含んだ瞬間、徐々に香りや味が広がってゆくように設計されています。
カクテルヴェリーヌは、そのカクテルから発想したもので、カクテルを飲んだときに口の中で繊細に感じる香りや味をNUMOROUSの視点で分解し、液体(=カクテル)から 固体(=ヴェリーヌ)として表現したいと考えました。さらに、ここ松本市は「バーのまち」。

クオリティの高い、個性豊かなバーがたくさんあります。
そこで僕が経験した感動を、松本にあるパティスリーとして、 ケーキで再現したいと考えたというのも理由のひとつです。

一口目より、完食後の味の印象を意識

一口目より、
完食後の味の印象を意識

ヴェリーヌをつくるとき、味の組み合わせをどんな風に考えていくんですか?

ヴェリーヌをつくっていくときの道筋は、決してひとつではなく、
いろいろなアプローチから考えていくことが多いです。
異なるアイデアを融合させたりしながら、完成形へと近づけていきます。
再現したいカクテルから決めることもあれば、「この素材を使いたい」というのがきっかけだったこともあります。頭の中には素材や味の組み合わせのストックがいくつもあって、 その引き出しを覗きながら、トライアンドエラーを繰り返して完成させていく感じです。

ヴェリーヌに限らず、常に頭の中で考えているケーキのアイデアは同時進行で
3~5種類くらいあって。全部ちゃんと完成するときもあれば、
全く異なるアイデアを組み合わせてうまくいくこともあります。

味や組み合わせを考えていくとき、大切にしていることはありますか?

上から順に食べ進めていったときに、味を感じる順番、
香りを感じる順番や広がり方はとても意識しています。
あとは、食べ終わったときの印象もとても重要。

ケーキでも料理でもそうですけど、一口目ってそれなりに美味しいんですよ。
驚きもあるし、一口目だけで味を印象付けることは割と簡単。
でも大切なのは、全部食べた時に「また食べたいな」と思えるような、心地よい満足感。
特にカクテルヴェリーヌは、層を食べ進めることでどんどん味が変化していくので、全部食べ終わったときに物足りないと感じたり、逆にくどいと感じたりしないように試作を繰り返しながらじっくり考えていきます。

最後の印象を良くするためには、ひとつのヴェリーヌの中で、主役と脇役をきちんと決めてストーリーをつくることも、とても意識しています。

「和食の考えかた」でつくるヴェリーヌ?

「和食の考えかた」
でつくる
ヴェリーヌ?

先ほどのお話で「主役と脇役」というワードが出てきましたが、
具体的に大塚さんが考える「主役と脇役」とはどんな意味でしょうか。

僕、和食の考えかたがとても好きで、それをカクテルヴェリーヌには取り入れているつもりです。対象として洋食は、魚を煮込む料理でも魚介のダシやトマト、ハーブ…とどんどん足し算をして、その複雑な味の絡み合いを楽しむものが多いと思うんです。 でも和食って、お肉の味を引き立たせるためだけにネギを使ったりするじゃないですか。
主役があり、その素材本来の味を最大限に引き立たせるために脇役が必要だという考えかたが、僕のケーキづくりにもかなり良い影響を与えていると思います。

なので、このカクテルヴェリーヌも
「主役級の食材をいくつも組み合わせて新しい味をつくる」のではなく、
「主役を引き立たせつつ、食べ進めるごとに深まりゆく味を表現していく」
ということに焦点を置いて、ときに和食のような“引き算”もしながら、つくっています。

たとえば、どんな味の組み合わせなのか、教えてください。

たとえば、冒頭で紹介した「カーディナル」は、主役は葡萄と赤ワイン。
でも甘い赤ワインを使っているのもあり、葡萄とワインだけでは味の輪郭がぼやけがちです。ただ甘いだけのゼリーになってしまうんですよね。そこに脇役として選んだのが、色も似ているカシス。カシスの酸味を加えることで、甘みにしっかりとした輪郭ができて、さらに葡萄のジューシーさが際立ちます。

「梅酒杏仁」には、共にバラ科サクラ属の「梅」と「あんず」を組み合わせました。
ラムが香る梅酒のゼリーに、後から杏仁の香りがふっと立ち上がり、最後にあんず酸味が、全体を包み込むようにまとめてくれます。ここには、近縁種の果実のストーリーが込められています。

ヴェリーヌは、たくさんの素材を使って何層にもしていますが
「全ての層が主役級の美味しさ!」という驚きだらけのものを目指したいのではなく、
主役を決めて、それを引き立たせる脇役を選び抜き、ひとつのヴェリーヌにひとつのストーリーをしっかりと仕立てることで、食べ進めるごとに小さな驚きを重ねられるようなものを目指したいと思っています。

なるほど!そのストーリーの中で、お酒がいい仕事をしてくれるんですね。

そうなんです。お酒は、その味のマリアージュには欠かせない存在。
アルコールは、揮発する温度帯が低いので、食べた瞬間に口の中の温度で揮発して、
フワッと鼻に抜ける香りを広げてくれるんです。
アルコールが、ひとつのケーキの香りのまとめ役をしてくれます。
だからこそ、このヴェリーヌに限らず、たくさんのお菓子にお酒が必要だと、
僕は思っています。

「お酒のケーキ」の誤解を解きたい

「お酒のケーキ」の
誤解を解きたい

お酒が苦手な人でも、食べられるものはありますか?

そもそも、その誤解から解きたい、という気持ちです。
世の中にある「お酒を使ったケーキ」と謳われているものは、そのほとんどが、お酒の味や香りをガツンと効かせているものが多いですよね。「ケーキにお酒を使う」という言葉自体が招いている誤解だと思います。
NUMOROUSには、お酒をしっかり効かせたケーキももちろんありますが、
僕が思う「ケーキにはお酒が必要」という意味は、「ケーキ全体のまとめ役」としてのお酒なんです。

全体の香りや味をまとめつつ、口に入れた瞬間にそれをフワッと引き立たせるために、 お酒が必要だと思っています。現に、食べてる人は気づかなくても、香りを立たせる補助 として、微量のお酒を使っているケーキも世の中にはたくさんあります。

なるほど!ケーキの味をより深める、香り立たせるための「お酒」。

はい。僕はNUMOROUSという店を通して、
お酒を効果的に使ったケーキやヴェリーヌを提案したいんです。
「お酒の味がする」ケーキではなく、「お酒を入れることで、こんなに味や香りが
広がるんだ…!」という発見ができるケーキをつくりたいと思っています。
お酒は、とてもおもしろくて奥深くて、いろいろな可能性を秘めています。
それをケーキの要素としてうまく取り入れたいと思っています。

地元食材に触れる「きっかけ」になりたい

地元食材に触れる
「きっかけ」になりたい

ワインや果物など、信州産の食材を使うことも多いですか?

そうですね。信州にはいい食材がたくさんあるので、積極的に使っています。
でもそれは「地産地消」という意味ではなくて…。
いや、もちろん地産地消も悪いことではないですが、でもNUMOROUSとして
地元の農家さんから買える量ってほんのわずかで、とてもじゃないけど
農業に貢献しているとは言えない規模だと思うんです。

「信州産だから積極的に使う」よりも、本質はもっと別のところにあるんじゃないかな。NUMOROUSだからこそできる地域との関わりかたを、ずっと模索し続けています。

たとえば、どんな関わりかたがあるでしょうか?

「地元食材をとにかくいっぱい買って使おう」「地元食材を使ったケーキを売ろう」という目先の話ではなく、僕にはNUMOROUSという店があるわけだから、地元食材の認知度を底上げできるようなケーキをつくることが、この場所で商売をする僕ができること、地域と関わることの本質だと思っています。
たとえば、信州ワインを使った「カーディナル」がありますよね。
ワインは苦手だと思い込んでいた人が、カーディナルを食べて「美味しい!これなら
一度飲んでみたい」と思ってくれたら、ワインへの“きっかけ”になるじゃないですか。
そのきっかけをつくれるパティスリーでありたいんです。

僕がつくりたいものであるのは大前提で、そこに生産者さんの思いも入れ込みながら、
より良いものをつくる。それを通して、間接的に地元産食材を知る人、食べる人が
増えていけば、互いにwin-winの関係になれるんじゃないかな、と思うんです。

カクテルヴェリーヌという新ジャンル確立を目指して。

カクテルヴェリーヌという
新ジャンル確立を目指して

今後の、カクテルヴェリーヌ の構想を教えてください。

パティスリーにおけるヴェリーヌって、どうしても脇役だったり、
夏の間だけ登場する期間限定ケーキだったりするんですよね。
涼しげな見た目もあり、ヴェリーヌ=夏という
イメージを持っている人も多いと思います。あと、どうしても生菓子の方が人気で…(笑)。

でも、一度食べると、この食べ進めていくワクワク感がたまらないという人が多いのも事実。「次はどんな味がするのかな?」と、層を破りながら新しい味に出会える、とても楽しい ケーキだと思います。そして、このカクテルヴェリーヌには、僕がつくりたいケーキの要素がギュッと詰まっているとも思っています。

今後は、NUMOROUSとして「カクテルヴェリーヌ」という新しいジャンルを確立し、
「ヴェリーヌと言ったらNUMOROUS!」と言ってもらえるような、ヴェリーヌを代表する パティスリーにしていくのが目標です。いずれはヴェリーヌの本を出したり、ヴェリーヌをブームにしたり、そんなきっかけになりたいと思い、日々新しい味を創造し続けています。

ぜひ、「いつものケーキとはちょっと違ったものが食べたいな」というときに、NUMOROUSのカクテルヴェリーヌを思い出してもらえたら嬉しいです。

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